ヘバーデン結節への再生医療
小関節注入の「痛さ」と「難しさ」を克服するための3つのポイント
医療法人Eternabloom さくら通り整形外科クリニック
医師 粟森 世里奈
医師 粟森 世里奈
「これ」と決まった決定的な保存療法に乏しいヘバーデン結節に対し、私は再生医療を用い、その劇的な効果を目の当たりにしている。
この感動を他の先生方にもぜひ共有したい。そこで本記事では、私が実践している以下のことについて臨床現場での実践経験をもとに紹介する。
- 投与プロトコル
- 関節内注入手技の3つのコツ
- 実際供覧
1.投与プロトコル
手指、特にDIP(遠位指節間)関節は非常に小さな関節であり、膝関節とは異なるアプローチが求められる。
| 溶解プロトコル | PFC-FD™︎の場合:1V を 生理食塩水 1ml以上で溶解。 ※投与関節数に合わせて調整 ASCの場合:1Vでは、乳酸リンゲル液* 1〜3ml / 2Vでは、1〜6mlで溶解 |
| 注入体積の制限 | DIP関節の容積は極めて小さいため、注入体積は「1関節あたり0.5ml」を上限としている。0.5ml以上の注入は指尖部に虚血を招くリスクがあるため注意を要する。 |
| 高用量曝露 | 膝関節基準の製剤量を手指の数指に分注することで、損傷部位に対する「有効密度」は膝に比べ圧倒的に高くなる。 この小関節特有の高濃度曝露が、投与直後からの速やかな疼痛緩和に寄与していると考えられる。 |
*商品名:ラクテック注
2.手技のコツ:確実なデリバリーを実現する3つのポイント
その1:背側からの指ブロックによる関注の無痛化
指先は痛覚が極めて鋭敏である。
そのため、DIP関節内注射における患者の苦痛と、術者が感じる手技上の障壁を排除する目的で、私は関節内注入に先立ち、背側からの指ブロックを施行している。
変形が進行した極小関節に対し、高額な製剤を一発で正確に注入することは、私にとって今なおプレッシャーである。
しかし、事前に指ブロックを行うことで、針先が確実に関節腔内にあるかを自由に微調整できるだけでなく、注入圧がかかる際も患者に苦痛を与えない。
この心理的余裕が、結果として正確な関節内穿刺へとつながっている。
| 手順 | 1%リドカイン2〜3ml(27G針で)を用い、患指MP関節高位の背側から刺入する。 この際、エコーを当て、指動脈に隣接する指神経を確認しながら薬液を注入することで、その後の手技を無痛化する。 |

指ブロックに伴う穿刺痛に対しては、局所麻酔用シール*を事前貼付することで、手技全体の痛みをさらに軽減できる。
指ブロックそのものに痛みを伴うものの、無麻酔でのDIP関節内注射による激痛を考慮すれば、本法を先行させる意義は極めて大きい。
*商品名:エムラパッチ ペンレステープ18mg等
その2:ルアーロック式シリンジの採用
DIP関節は注入抵抗が非常に強い。
通常のシリンジでは内圧上昇によりルアー部から針が脱落するリスクがあるため、1mlのルアーロック式シリンジが有用である。
これにより、準備した液量を確実に狭小な関節腔内へ送り込むことができる。
針は27Gを使用している。
その3:エコーガイド下「背橈側45度」からの刺入
診察用角枕の縁にDIP関節を置き、患者に軽く指を曲げるよう力を入れていただく。
これにより、指が安定した状態でDIP関節軽度屈曲位を保持できる。
DIP関節の背橈側45度付近を刺入点としている。
プローブを関節背側に当てて関節裂隙を描出し、伸筋腱や神経血管束を回避しながら刺入する。
その際、シリンジの尾側を患者の近位方向(手関節側)へ少し振ることで、針先が関節腔内にスムーズに入り、正確に注入しやすくなる。

3. 症例供覧(74歳 / 女性)
| 診断 | 右母指MP関節症 / 右中指ヘバーデン・ブシャール結節 / 左母指IP関節症 左母指CM関節症 / 左示指・中指ブシャール結節 |
| 経過 | 指ブロック下でPFC-FD™︎(2V)を各関節へ分注(母指CM関節のみ1ml。その他6関節には0.5mlずつ注入)。 投与当日の夜より「指を動かした際の鋭い痛みが減った」と効果を実感したという。 1ヶ月後、VASは劇的に低下し、家事動作がスムーズにできるようになり、「痛かったのは最初の麻酔だけでした」と笑顔で回想していた。 |
| 考察 | 膝関節におけるPFC-FD™︎の効果発現は投与後3〜4週間を要するのが一般的であるが、ヘバーデン結節に対する注入においては、投与当日からの極めて速やかな疼痛軽減を確認している。 この効果発現時期の差は、両関節の解剖学的容積差に起因すると推察している。 膝関節の平均容積が100〜130mLであるのに対し、DIP関節の容積は0.5mL以下と極めて小さく、その差は200倍以上に及ぶ。 このため、小関節内への投与では高用量の製剤が標的組織に作用し、抗炎症機序が迅速に誘発されるものと考えている。 |

初回注入で劇的な除痛効果を得ることができ、本治療に対する患者の信頼は非常に高いものとなった。
初回注入から約8週間後、軽度の疼痛が残存した右中指PIP関節および左母指CM関節へPFC-FD™︎の追加注入を施行した。
あわせて、効果を実感した患者本人からの強い希望により、未介入であった右肩甲上腕関節と左手関節へも同日に注入を行った。
他部位への積極的な治療展開に繋がった症例である。いずれの部位も経過は良好である。
4. 結び:医師の皆様へ
ヘバーデン結節の保存療法において、再生医療は患者にとっての「光」となりうる。手技の要諦は、「とにかく先に指ブロック」を行うことである。
この一手間で、術者は確かな手技に専念でき、患者は治療の恩恵を受けることができる。
ぜひ多くの先生方に体験していただきたい。
※「PFC-FD」はセルソース株式会社の商標です。
